アーキテクト・エージェンシーがお送りする建築最先端マガジン

Architect's magazine

MAGAZINE TOP > > ARX+

協働のなか互いに認め合った6人の建築家が集結。一組織事務所には成し得ない多様性と創造性の実現を目指す

協働のなか互いに認め合った6人の建築家が集結。一組織事務所には成し得ない多様性と創造性の実現を目指す

ARX+

独自の〝技〞で建築業界をリードする組織を紹介する本企画に、今回ご登場願うのは、建築専門家集団「ARX+(アークス・プラス)」である。それぞれ個人事務所の〝主〞である6人が集まり、アトリエ事務所でも組織事務所でもない、おそらく本邦初の「キュレーション型アーキテクト」を結成したのは、2011年9月のことだ。30代から60代まで、各世代の頭脳を終結させた集団の見つめる先には、何があるのか。

「個人からチームへ」思いを共有した建築家が結集

「のっけから、誤解を恐れずにいえば、建築業界で一時代を創った巨匠と呼ばれる人たちが徐々に引退し、実際のものづくりの現場も、ある個人が独自のアイデアですべてを創造していくやり方では回らなくなってきています。つまり、建築家に求められる役割は、時代とともに変化した。にもかかわらず、相変わらずみんなが巨匠を目指していますよね。我々は、そうではなく、個々の特性を生かした〝チーム〞で建築に向き合ってみようじゃないか、という思いをベースに集まったのです」
松家克代表は、組織ができたいきさつを、そう語る。

とはいえ、彼らは決して〝思い〞だけで一つになったわけではない。現在も、それぞれが独立して建築事務所を営む6人の出会いは、たまたまある工務店の設計委託のメンバーに加わっていたことに、端を発する。そこには70〜80社の設計事務所が所属しており、お互いの仕事ぶりを〝観察〞することもできた。そうした環境のなかで、「この人はできる」「自分にないものを持っている」と、その実力を認め合ったプロ同士だからこそ、前例のない取り組みにチャレンジできたのである。

集団づくりの「言い出しっぺ」は高橋洋一郎氏で、当時50代後半だった増田兼泰氏に声をかけたところから、すべては始まった。声をかけられた増田氏は、「この5人はちょっとほかの人とは違う、とずっと思っていたんですよ」と振り返る。
同時に、「個々に依頼された案件に取り組みながら、みんな一人でやることの限界のようなものも感じていた」(松家代表)ことが、お互いを強く引き寄せることになった。

ところで、ARX+という集団の〝新しさ〞は、どこにあるのだろう。松家代表は、アトリエ事務所、組織事務所との比較で、それを説明する。
「前者は、ある建築家がいて、その人の思想がすべて。スタッフはそれをいかに実現するかに尽力する、絵に描いたようなトップダウン方式です。他方、社員が多くいる後者の組織形態はツリー型で、議論を重ねるうちに、えてして〝無難な〞方向にいきやすい。大規模建造物を多く手がけることもあり、建築というより建物を量産する傾向が強くなります」

前述のように、「それだけでは、時代が建築家に求めるニーズを十分に満たすことは難しい」というのが、集団の総意だ。
「我々は、6人が対等平等なネットワークをかたちづくるセミラチス(網目状構造)型の組織なのです。あくまでも建築を志向しつつ、誰かの独断ではなく、それぞれの知恵やスキルを総動員して、より高みを目指していく。そんなイメージでしょうか」
実際、「親子ほど年が離れた人もいますけど、ヒエラルキー(階層)のようなものは、一切ありません。今まで揉め事になったことも、一度もないんですよ」と、松家代表は笑う。

メンバーのスキルが〝等質〞ではないのも、面白いところだ。松家代表に、各人の個性を、ごく簡単に紹介してもらおう。
「様々な実務を任せるなら、葛原千春さんの右に出る人はいない。経験豊富で、デザイン的にちょっと突っ込むのが得意な高橋さん。増田さんも経験豊かで、非常に手堅く〝間違いのない〞ものをつくります。また小森有人さんは、若いだけあって時々、『おっ』という発想を見せてくれる。最年少の岡村航太さんは、何といっても他人にないユニークなアイデアが魅力ですね」
さらに自らについては、「ホンダやカルビーの本社など、企業系の建築を多く手がけてきたこともあり、どちらかといえば現実主義者だと思っています」との分析だ。
付言すれば、メンバー選びでは、スキルの違いだけでなく、あえて「年代差」にもこだわったのだという。
「ARX+には、30代から60代まで、各世代がまんべんなくいるんですよ。発想の仕方などは、やはり年代によって違いがあります。それが、お互いのとてもいい刺激になっていることは、間違いありません」

【次のページ】
内部で競い論じ合い、そして協力する

ページ: 1 2 3

PROFILE

松家 克

1972年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、椎名政夫建築設計事務所。

88年、ARX建築研究所を倉林憲夫、新井国義と共同創設。

武蔵野美術大学理事、武蔵野美術大学評議員、『ディテ-ル誌』(彰国社)編集委員。

増田 兼泰

1969年、芝浦工業大学建築学科卒業。

83年、ミサワホーム・セラミック設計部。

89年、スペリオホーム設計部長・商品開発部長。

98年、アークシリーズでグッドデザイン賞受賞。

2001年、増田兼泰一級建築士事務所設立。

高橋 洋一郎

1978年、武蔵野美術大学建築学科卒業。

80年、坂倉建築研究所。89年、箱根桜庵でBCS賞受賞。

90年、一級建築士事務所高橋計画設計アトリエ設立。

94~99年、多摩美術大学建築学科非常勤講師(建築設計演習)。

99~2011年、実践女子短期大学・大学非常勤講師(一般教養)

葛原 千春

1987年、中央工学校建築設計科卒業。

87年、アンカー(不動産開発会社)企画設計部。

93年、アーネストホーム(住宅設計施工会社)設計部。

2002年、クロノグラム アーキテクトスタジオ設立。

小森 有人

2000年、東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。

1997~02年、FPA一級建築士事務所勤務。

06年、一級建築士事務所k.a.a.o設立。

99年、日本建築学会コンペ「住み続けられるまちの再生」支部入選。

02年、ユニオン造形デザイン賞「扉」佳作。

岡村 航太

2002年、東京工業大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了。

04年、東京工業大学理工学研究科建築学専攻博士課程自主退学。

04年、吉村靖孝建築設計事務所。

05年、8d / ハッチョウボリ・デザイン・オフィス一級建築士事務所共同設立。

08年、日本建築学会作品選奨。

13年、8d一級建築士事務所に改称。

人気のある記事

アーキテクツマガジンは、建築設計業界で働くみなさまの
キャリアアップをサポートするアーキテクト・エージェンシーが運営しています。

  • アーキテクトエージェンシー

ページトップへ